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社会保障制度改革についての提言「だれもが自己実現を目指せる日本をつくるために社会保障制度の再設計を」に関する記者会見を開催

令和国民会議(通称:令和臨調、事務局:日本生産性本部)は4月25日、都内ホテルで記者会見を開き、「骨太の方針」に向けた社会保障制度改革に関する提言「だれもが自己実現を目指せる日本をつくるために社会保障制度の再設計を」を取りまとめ、発表しました。公正・持続・効率の3原則を打ち出し、時代の変化や要請に合わせて、社会保障制度全体を検証し、制度設計をするよう求めました。関連資料はこちらからご覧ください。

記者会見の様子

今回の提言は、政府が6月をめどに策定を検討している「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に向け、社会保障制度改革に焦点を当てました。記者会見には、第2部会「財政・社会保障」共同座長の平野信行 三菱UFJ銀行特別顧問、翁百合 (株)日本総合研究所理事長、同部会主査の小林慶一郎 慶應義塾大学教授、伊藤由希子 津田塾大学教授が出席しました。

平野共同座長は、「働き方・生き方の多様化や、少子高齢化の進展、産業構造の変化が進んでいるが、残念ながら現状の社会保障制度は、これらの変化に対応していない」と述べ、日本の社会保障制度に対する問題意識を示しました。

そのうえで、「若い人たちが、現状の社会保障制度に対して不安を抱いているままでは、思い切ってチャレンジすることはできない。より多くの人々に社会保障制度の支え手になってもらうためには、信頼を得られるようにバージョンアップをすることが必要だ」と述べました。

提言では、速やかな検討を求める政策についての全体像と考え方として、「多様な働き方・生き方で自己実現」と「平時と緊急時の医療・介護」という2つの基本的な考え方と、6つの具体的な政策の方向性を示しています。

まず、「多様な働き方・生き方で自己実現」では、「将来不安を軽減する公正な負担と幅広い支援が必要」として、ジェンダーや正規雇用・非正規雇用などによる賃金格差や社会保障の差異を解消する「公正な労働市場の実現」を挙げました。

また、望めばだれもが働きながら安心して子育てできるように安定した財源を確保した上で持続的な支援を実現する「子育て支援環境の構築」と、働くほど所得や年金が増える仕組みと、所得・資産に対する公正な負担(応能負担)の仕組みを構築することによる「公正な負担・支援を実現」を挙げました。これらによって、若年層や現役世代の将来不安の軽減をめざします。

このほか、産業構造が変化する中で、求職者支援制度の抜本改革が必要になるとの見解を示し、「積極的労働市場政策への転換」を掲げます。「失業を防ぐ」のみならず、「失業しても、安心して能力を伸ばし、すみやかに労働移動ができるセーフティネットを充実させる」のが狙いです。

具体的には、雇用保険の加入資格を持たない一部の労働者に対する求職者支援の機会を拡大する一方、既存制度の周知ならびに強化、利用の要件緩和をさらに進め、対象者を拡大します。また、社会で求められる職業能力に柔軟に対応するリスキリング・リカレント教育とジョブマッチングなどの就業支援を実現することも盛り込みました。

政府が打ち出す子育て対策などの財源が議論となる中で、平野共同座長は「まずは無駄の見直しが必要であり、次に社会保障全体の給付と負担の適正化を図る必要がある。つまり、給付を効率化し、生産性を高めることと、負担の適正化を図って負担できる主体があれば負担してもらうことが大事だ」と述べました。

さらに、それでも不足する部分については、「日本の将来を担う世代を育成するのは社会全体の課題であり、安定的な税を基軸にするべきだ。一方で、いずれこの世代も社会保険の担い手になっていくわけだから、社会保険料を全く考えないわけはない。子育て支援の目的と性格を踏まえたベストミックスを、知恵を絞って考えるべきだ」と述べました。

医療提供体制改革は喫緊の課題

もう一つの「平時と緊急時の医療・介護」に関する政策について、「かかりつけ医機能を備えた医療者の認定制度の創設」と、「柔軟で強靭な救命救急・高度急性期機能確保」、「負担に見合った効果が実現できる制度のための基盤整備」の3つの柱を打ち出しています。

平野共同座長は「コロナ禍の中で、世界に冠たるものと誇りに思ってきた医療提供体制の脆弱性が露呈した。医療制度の改革は、私たちが今回の提言で最も訴えたいことだ」と述べました。

「かかりつけ医機能を備えた医療者の認定制度の創設」については、国民の46%が、かかりつけ医を持たない中で、コロナ禍では、国民の情報不足と医療機関の混乱につながった現状の改革をめざします。

具体的には、人材の厚みがあり、連携によって24時間の初期対応ができる体制を整えた医療者(多職種保健チーム)を認定します。認定にあたっては、研修を必須とし、責任を明確にしたうえで、評価を定期的に行って住民への責任に応じた報酬体系を導入することを提案しました。

一方で、住民は医療者を選択、登録します。長期間の継続的な疾病予防と健康管理のために健康情報を医療者と共有することで、体調の異変時も速やかな相談が可能になります。

伊藤主査は、記者会見で「かかりつけ医は、日本に馴染まないという理由で、過去40年間にわたり、退けられてきた経緯がある。いよいよ、人口減少が進むこれからの社会において、可能な限り有効に資源を使って、安心な医療・介護を持続するため、今こそ必要な仕組みであると思う」と訴えました。

「柔軟で強靭な救命救急・高度急性期機能確保」は、全国の約3900の救急告示病院のうち、63%が199床以下の小規模病院であり、「広いが薄い」救急体制では緊急時に人材が集められず、患者のための機能分担が維持できない現状の改革をめざします。

病院の機能と規模の再編のための現実的な具体策を講じ、地域中核病院など必要性と緊急性の高い分野への手厚い人材配置を行います。また、緊急時における都道府県や国の指揮命令権を強化し、機能に応じた役割を果たした医療機関への正当な評価につなげるほか、初期救急から高度救急までの役割の明確化・分担を徹底します。

「負担に見合った効果が実現できる制度のための基盤構築」に関しては、日本では医療や介護のデータを正確に計測・集約する体制が整備されておらず、実態の把握や政策効果の検証が困難であるなどの課題に対応します。

対策としては、情報の分散や統計調査の重複を避けて一元化するため、保険医療機関の事業報告書の報告と公開の義務化や公費の流れを保険診療に限らず透明化します。医療・介護サービスの規模を国際標準の基準で把握するため、OECDの統計(Health Expenditure)の基準に則って国内の統計情報の集計・区分や推計方法を見直し、医療の質・機能・費用の計測と国際比較を可能にします。

提言の結びとして、平野共同座長は「このような社会保障制度改革を進めることにより、すべての人にとって公正な支援と負担を実現し、自己実現と社会の発展を支えることをめざすべきだ」と指摘しました。そして、社会保障の機能を将来にわたって最適な姿で持続できるよう、時代の要請に合わせ、中長期的な観点から検証し制度設計を行う恒常的な政府横断的会議体の必要性を指摘しました。